【第29回】『香港街道地方指南』――香港の道を案内し続けた半世紀
香港で長く暮らした人なら、一度は『香港街道地方指南』のお世話になったことがあるのではないでしょうか。1977年の創刊以来、約50年にわたり香港市民や駐在員、営業担当者、配送業者、運転手たちの移動を支えてきた地図帳です。その『香港街道地方指南』が、2026年発行の50周年告別版をもって歴史に幕を下ろすことになりました。
今でこそスマートフォンで地図アプリを開けば目的地まで案内してくれる時代ですが、インターネットが普及する以前、この一冊はまさに香港生活の必需品でした。

バス路線の複雑さと必携の理由
特に香港はバス路線が極めて発達した都市です。現在でも香港のバス網は世界有数の規模を誇りますが、地下鉄(MTR)が現在ほど整備される前は、今以上に市民生活を支える重要な交通インフラでした。しかし、ご存じのとおり香港のバス路線は非常に複雑です。同じ方面へ向かう路線でも経由地が異なり、往路と復路でルートが違うことも珍しくありません。さらに、市街地の細い路地まで入り込むミニバス路線も数多く存在します。新しく香港に赴任した駐在員はもちろん、地元の人でも慣れない地域へ行く際には事前の路線確認が欠かせませんでした。

営業・配送・運転手を支えた存在
『香港街道地方指南』には詳細な道路地図だけでなく、主要なバス路線や停留所の情報も掲載されており、市民の日常の移動はもちろん、営業担当者が訪問先を探したり、配送業者が効率的なルートを検討したりする際にも重宝され、まさに香港社会を支える実用書だったと言えるでしょう。
都市変化を映す記録としての価値
また、この地図帳の価値は単なる道案内にとどまりません。香港という都市の変化を映し出す記録でもありました。
香港は世界でも有数のスピードで都市開発が進む街です。海岸の埋め立てによって海だった場所が陸地になり、新しい道路や地下鉄が整備され、高層ビルが次々と建設されます。そのため、数年前の地図でも現状と合わなくなることが珍しくありませんでした。毎年発行される最新版を購入し、街の変化を確認することは、多くの利用者にとって恒例行事でもありました。

香港の成長を刻んだ地図帳
1977年版と現在の地図を見比べると、その違いは一目瞭然です。現在の中環や湾仔の海沿いの一帯には、当時まだ海だった場所が少なくありませんでした。西九龍や九龍東も現在とは大きく異なる姿でした。『香港街道地方指南』は、こうした香港の成長と変貌を毎年記録し続けてきたのです。
スマホ普及で紙地図の役割縮小
しかし2000年代後半以降、スマートフォンとGPSナビゲーションが急速に普及し、紙の地図の役割は徐々に縮小していきました。目的地検索も経路案内もリアルタイムで行えるようになり、紙の地図帳を持ち歩く人は次第に少なくなっていきました。
半世紀の終わりと告別版の意味
テクノロジーの発達により、紙の地図帳が果たしてきた役割も終わりを迎えようとしています。それでも『香港街道地方指南』は、単なる昔の地図帳ではありません。そこには半世紀にわたる香港の変遷が刻まれています。50周年告別版は、一冊の地図帳の終刊であると同時に、紙の地図を片手に香港の街を歩いた時代との別れを象徴しているようにも感じられます。



市民にとって時代を映す地図だったのですね。
まとめ
- 1977年創刊、香港生活必需の地図帳
- バス路線情報も収録し市民を支援
- 営業・配送・運転手に実用的な手引き
- 都市開発の変化を毎年記録した資料
- スマホ普及で紙地図の役割が縮小
- 50周年告別版で半世紀の歴史に幕













