この夏、日本であるタレントの方が「日本国内で英語中心の生活を送る子どもが、日本語での会話に不安を感じている」とご自身の動画で語り、ちょっとした話題になりました。海外で子育てをする親にとって、これは決して他人事ではないテーマですよね。他言語の環境で育つ子どもは、いったいどんな言葉で世界の見方を形作っていくのでしょうか。
子どもが育む「言葉の居場所」とは
我が家は日本にあり、子どもたちの生活は基本的に日本語で回っています。それでも、1歳と3歳の子どもたちを見ていると、ふとした瞬間に気づかされることがあります。3歳の娘は、嬉しいときも悲しいときも、感情がこぼれる瞬間は決まって日本語ですが、Eric Carleの絵本が大好きなので、熊を見ると必ず”bear”と言います。
一方、1歳の息子は、寝る前に歌う英語の子守唄をたった一曲聴いているだけなのに、夜空の星や、星の形を見つけると必ず”twinkle”とつぶやきます。日常のほとんどが日本語であっても、ほんの少し触れた英語が、子どもの中に小さな英語の居場所を作っていることに気づかされるのです。より濃密に複数の言語に囲まれて育つ子どもたちの中では、こうした「言葉ごとの居場所」が、さらに複雑に、そして重層的に形作られているはずです。

二言語で育つ子どもの自然なゆらぎ
第二言語習得の研究によれば、他言語環境で育つ子どもは、主たる言葉を一つに決める必要はなく、少しずつ両方を取り込みながら育つのが自然な姿です。二つの言語を同じくらい使いこなせる必要もなく、場面によって得意な言語が違うのは、ごく普通のことだと言われています。実際、息子にとって英語の歌”See the Bunny Song”は、うさぎと一緒に眠るための「合図」という役割を持っています。
日本語ではまだ表せていないその役割を、たった一曲の英語の歌が果たしている———これこそ、二つの言語を併せ持つ、その子ならではの世界が形作られていく瞬間なのだと思います。冒頭の動画で語られていた不安も、そうした形成過程で起きる、ごく自然な揺らぎだったのかもしれません。
優劣ではなく、日々の小さな結びつきを見守る
日々お子さんの言葉に耳をすませていると、「今日は英語ばかりだった」「日本語のフレーズがまた一つ変わってしまった」と、一喜一憂する瞬間があるかもしれません。けれど大切なのは優劣を測ることではなく、日々積み重なる小さな結びつきを、親としてそっと見守ることだと思います。”bear”や”twinkle”も、うさぎと眠るジェスチャーも、我が家に芽生えた、ささやかな英語との接点にすぎません。
我が家でも、いつか、こうした小さな記憶の一つひとつが、単なる訳語を超えた、複雑で豊かな世界の見方につながっていくことを願っています。
執筆者プロフィール
海野 彩佳
大学院在学中、第二言語習得(SLA)を専門に研究。卒業後は高等学校に12年間勤務し、英語教育の現場に立ちながら、指導法をテーマに研修会への登壇も多数経験する。現在は1歳と3歳の2児の母として子育てに奔走しながら、研究で得た知見を日々の子育てや発信活動に活かしている。











