【第32 回】お茶と点心を囲んで――香港の日常に息づく飲茶の風景
飲茶といえば、香港を代表する食文化のひとつ。香港に住んでいる日本人にはもちろん、旅行者にも人気ですが、今回は、そんなお馴染みの飲茶の風景に改めて目を向けてみましょう。
「飲茶(ヤムチャ)」は、文字通り「お茶を飲む」という意味。お茶を飲み、点心をつまみながら、家族や友人とおしゃべりをする。食事だけでなく、お茶を囲んで時間を過ごすことも飲茶の楽しみです。

昔の飲茶を象徴する言葉「一盅兩件」
「一盅兩件(ヤッジョン・リョンギン)」という言葉があります。「盅」とは、もともと取っ手のない小型の器を指し、茶盅(湯呑み)や酒盅(盃)などに使われる言葉で、これらの器を数える量詞としても使われます。「兩件」は文字通り二つの点心。「一盅兩件」は、昔の茶楼で、お茶に少しの点心を添えて楽しむ基本的な組み合わせを表す言葉でした。今では、飲茶そのものを表す昔ながらの言い回しとしても使われています。飲茶文化は広州を中心とする広東地方で発達し、香港でも19世紀半ばにはすでに香港島西部に茶楼があったといいます。
飲茶に息づく独特の作法とその由来
飲茶の席には、ちょっと面白い作法や決まりごとがあります。誰かにお茶を注いでもらったら、指でテーブルを軽く「トントン」。これは「ありがとう」のサインです。清の乾隆帝がお忍びで旅をしていた際、皇帝からお茶を注いでもらった家臣が、正体をばらさないよう、指を曲げて跪く姿に見立て、テーブルを叩いて叩頭の代わりにしたのが始まり、という故事も伝わっています。あくまで由来の一説ですが、食事を止めずにお礼を伝えられる便利な仕草として、今でも広く使われています。
衛生意識から広まった洗杯と公筷の習慣
お茶がなくなれば、急須の蓋を少しずらす。「お湯を足してください」という店員さんへの合図です。一部のお店では、お茶やお湯で碗や箸、レンゲをすすぐ「洗杯(サイプイ)」も見かけます。衛生状態が今ほどよくなかった時代に、熱いお茶などで食器をすすいでいた名残ともいわれています。今では実際の衛生効果というより、昔からの習慣として、半ば気休めのように受け継がれています。


白か黒か?公筷の色問題が話題に
箸が二膳並んでいたら、一膳は自分用、もう一膳は料理を取る際に使う「公筷(取り箸)」です。香港では2003年のSARS流行時、政府が「食事の際には公筷・公匙を使うこと」と呼びかけました。SARSを契機に食事の際の衛生意識も高まり、現在では二膳の箸をセットする店も多く見られます。
では、白と黒の箸、どちらが公筷なのか。実はこれは香港でも認識が分かれるところで、2025年にも香港メディアで「白か黒か」が話題になったほど。もともと衛生のための慣習ですから、大事なのは、一度口をつけた自分の箸を取り箸として使わないことです。
変わる風景、変わらない飲茶の楽しみ
時代とともに、茶楼での過ごし方も変わりました。昔の朝の茶楼では、点心を待ちながら新聞を広げる人がおなじみでした。今、新聞に代わったのはスマートフォンやタブレット。点心の頼み方も、かつては店員がトレーを抱えて売り歩き、やがてワゴン、注文票、そして最近ではQRコードで注文する店も増えています。
飲茶の風景は時代によって少しずつ変わってきました。それでも、お茶を飲み、点心をつまみながら家族や友人と時間を過ごす。そんな飲茶の楽しみは、今も変わっていません。

変わらぬ団らんの場として、飲茶の楽しみを続けたいものですね。
まとめ
- 飲茶はお茶と点心を囲む香港の生活文化
- 「一盅兩件」は昔の基本的飲茶スタイル
- 指トントンや蓋ずらしなど独特の作法がある
- 洗杯や公筷は衛生意識から広まった習慣
- 箸の色問題は2025年も話題になるほど
- 注文方法はワゴンからQRコードへ時代と共に変化













