【第4回】進化する移動のかたち――香港の交通インフラの歩み
ビルの谷間を縫うように走る二階建てバス、きらびやかなネオンの中を滑るトラム、そして域内を網の目のように結ぶ地下鉄――。現在の香港は、まさに都市交通のショーケースといえます。ここでは、その百数十年にわたる発展の歴史をざっくりと振り返ってみたいと思います。

香港最初の公共交通機関、ピークトラム
香港における最初の公共交通機関は、1888年に開業したピークトラムでした。
現在では観光名所として広く知られるこのケーブルカーが最初に導入されたというのは少し意外かもしれませんが、当初は英国の植民地官僚やヴィクトリア・ピーク周辺に住む上流階級の人々の日常の足として整備されたものでした。
1898年、スターフェリー誕生
同じく1888年には、九龍と香港島を結ぶフェリーサービスも始まりました。陸上交通の要衝である九龍と、政治・経済の中枢であった香港島を結ぶ移動手段の整備は、当時の喫緊の課題でした。このフェリーは1898年に「スターフェリー」となり、現在でも市民と観光客の重要な足として活躍しています。

20世紀に入り、トラム、鉄道、九龍バスが開業
1904年には、香港島北部を東西に走る路面電車(トラム)が開業しました。市民生活に根ざした交通手段として、今なお現役で走り続けています。1910年には、九龍と広州を結ぶ九広鉄道の香港側区間(英段)が開通。さらに1921年には、九龍バスの運行が始まり、陸上交通の選択肢も広がっていきます。
1925年、啓徳空港開港
空の交通インフラとしては、1925年に啓徳空港が開港しました。市街地に位置するこの空港は、1998年にランタオ島の新空港(香港国際空港)が開港するまでの長きにわたり、香港の空の玄関口を担ってきました。
1972年、クロスハーバートンネル開通
かつて、香港島と九龍の間の往来は、フェリーや「嘩啦嘩啦(ワラワラ)」と呼ばれる水上タクシーが主流でしたが、1972年に両地域を初めて陸路で結ぶ海底自動車トンネル(クロスハーバートンネル)が開通したことで、移動の利便性が飛躍的に向上しました。
1979年「観塘〜石硤尾」を皮切りにMTR開業。
現在では香港市民にとって欠かせない存在となっているMTR(地下鉄)が初めて開業したのは、1979年のことです。1号線として観塘線の観塘〜石硤尾間が開通したのを皮切りに、荃湾線、港島線、東涌線、と新しい路線が次々と整備され、郊外までをも網羅する広大なネットワークへと発展しました。現在では、都市機能を支える骨格として、世界でも屈指の利便性を誇る交通インフラとなっています。
こうして香港の交通インフラの歩みを振り返ると、限られた土地と複雑な地形という制約のなかで、人と街をいかに効率的につなぐかという課題に対し、香港が巧みに応えてきたことが見えてきます。その軌跡は、まさにこの都市が持つダイナミズムと合理性の結晶といえるのではないでしょうか。

交通機関は都市学オタクのロマンであります!
まとめ
- ピークトラム 1888年開業、上流階級の移動手段
- スターフェリー 九龍と香港島を結ぶ重要な交通機関
- トラム 1904年開業、市民生活に根ざした交通手段
- 九広鉄道 1910年開通、広州と香港を結ぶ鉄道
- クロスハーバートンネル 1972年開通、海底トンネルで陸路接続
- MTR地下鉄 1979年開業、都市機能の骨格となる交通網