北環線(Northern Link)の起工式
2025年10月3日、香港MTRは北環線(Northern Link)の起工式を行いました。

北部エリアの大動脈として期待
北環線(Northern Link)は、香港北部エリアにおける都市開発のインフラ整備の一環として、2034年頃の開通を目指しています。現在建設中の新路線の中では最も大規模で、この新路線ができることにより北部エリアの地域活性、越境経済の発展が大いに見込まれています。
香港北部都会区、略称「北部」
香港北部都会区(Northern Metropolis)、略称「北部」は新界北部の都市開発構想の総称です。この新界の北部には、「元朗」「天水圍」「粉嶺」「上水」など、すでに郊外の主要エリアとして開発されている場所に加え、これまで交通手段が限られていた自然豊かなエリアが広く含まれています。
それぞれ専門サービス・物流ハブ拠点、イノベーション科学技術、貿易・工業、観光開発と、エリアごとに特色を持つよう開発が進められる予定です。北部の開発は隣接する深圳とも連携しながら進められ、越境経済の発展も目指しています。そして将来的には約250万人が居住する都市圏へ発展させるべく、今から着々と整備が進められています。また香港、マカオ、広東省の9都市を跨ぐ経済圏である粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)構想において、香港側の中心地がこの北部都会区になるため、今後の重要拠点となるでしょう。今年9月には新たに「北部発展委員会」の発足が発表され、香港政府は構想の実現をより加速化させる狙いです。
新駅は「凹頭」「牛譚尾」「新田」「古洞」の4駅
今回新設される地下鉄の北環線は、この北部を開発する上での大動脈となります。市内中心部とのアクセスが向上することで、人口過密な市内中心部から人々の往来が増え、居住地も北部エリアに分散されていくでしょう。新たな雇用が増えることで、これまで市内中心部へ通勤していた北部在住の人々が、近くで就労できるというメリットも生まれます。
新設の駅には隣接して商業施設やマンションなどができ、駅を中心に地域経済が発展、不動産市場の開発、周辺の不動産価格の上昇、開発プロジェクトへの投資が期待されます。
北環線は、具体的には既存の東鐵線と屯馬線を接続する形になります。西は屯馬線の錦上路駅から、東側へ向かって新たに凹頭、牛譚尾、新田、古洞の4駅ができます。

古洞は上水と落馬洲の間に新設される駅で、ここから東鐵に接続します。
さらに支線として新田駅からは、深圳市のイミグレーションである皇崗口岸ビルへ、直接乗り入れする越境路線が伸びます。これまで皇崗口岸へはバスか車でしかアクセスできなかったので、羅湖、落馬洲に続いて皇崗口岸は3つ目の、鉄道で深圳へ行けるイミグレーションポイントになります。今回の主線である錦上路から古洞駅までは、わずか12分で移動できるようになり、移動効率は各段にアップします。
まずは接続駅の古洞駅が2025年11月に主工程が完了し、2027年に開業する予定です。今後の北部開発に期待が高まります。
イミグレーション手続きの利便性が向上
コロナ禍で景気が冷え込んでから香港では「北上消費」という社会現象が起きています。これは香港在住の人々がより物価の安い深圳など、中国本土へ出向いて食事、ショッピング、レジャーを楽しむことを指します。香港との中国本土の物価差によるコスパの良さが主な理由で、わざわざ交通費と多少の時間をかけても、中国本土の方がお得なため人々は「北上」して「消費」するというわけです。
さらにイミグレーション手続きの利便性が向上したことも「北上消費」が進む大きな理由の一つです。顔認証など手続きの簡略化により、香港と深圳の往来は従来よりも一層便利になりました。この影響で香港内では小売店の売り上げが低迷し、飲食店などは廃業に追い込まれるケースも少なからず見受けられます。そして、空いたテナントに今度は中国本土の飲食チェーン店が入るケースが多く見られます。中国本土の企業は海外進出の足掛かりとして、まずは香港からと考える企業が多く、最近は香港でも中国本土の飲食チェーン店が軒を連ねるようになりました。
まとめ
- 北環線が2034年開通を目指し起工
- 北部開発で越境経済の活性化期待
- 新駅4つ設置で地域経済が発展
- 深圳への越境鉄道が新田駅から直結
- 古洞駅は2027年に開業予定
- 北上消費で香港の小売業に影響
(記事提供:H.S. Planning 2025年10月15日掲載コラム)














