MENU

【第16回】ちょっと不憫な香港雑学集

目次

【第16回】香港の水はどこから来て、どう流れていくのか─超高密度都市を支える水インフラのしくみ

香港の水道は、あまりにも当たり前のように使えてしまうがゆえに、そのありがたさが意識されにくい生活インフラのひとつです。むしろ、赤水が出た、水圧が弱いといった不満の方が話題になりがちです。しかし、もともと自然水源に恵まれない土地に、水の供給能力を超える規模の人々が集まって形成された高密度都市である香港で、日常生活に大きな不自由を感じることなく水を使えている背景には、極めて独特で高度な水管理システムの存在があるのです。

上水の水源は「三本立て」──中国本土・雨水・海水淡水化

香港の上水は、大きく三つの水源に依存しています。ひとつは中国広東省の東江から導水される原水です。もうひとつは香港域内に降った雨水です。そして2023年末からは、将軍澳の海水淡水化施設が稼働を開始し、香港の食水供給の約5%を賄う新たな水源となりました。

出典:Water Supplies Department

東江の水は、香港の飲料水のおよそ7〜8割を占める主力水源で、専用の導水管を通じて香港に送られています。残る部分を、貯水池に集められた雨水と淡水化した海水が補完する構造になっています。

出典:WIKIMEDIA COMMONS

浄水処理と安全管理

原水は各地の浄水場で、沈殿、ろ過、塩素消毒などの工程を経て上水に変えられます。処理された水は国際的な飲料水基準(WHO基準)に準拠して管理されており、水質検査は極めて厳格です。技術的には蛇口からそのまま飲んでも問題のない水質が保たれています。

ただし、香港では建物内の給水タンクや配管の老朽化によるリスクが完全には排除できないため、一般家庭では今も煮沸や浄水器の使用が広く定着しています。

世界でも珍しい「海水トイレ」

香港の水道で最も特異なのが、トイレの洗浄水の約85%が海水でまかなわれている点です。これは世界的にも非常に珍しい仕組みで、1950年代の慢性的な水不足を背景に導入されました。海水は専用の配管網によって各家庭へ供給され、トイレ専用水として利用されています。この仕組みにより、年間約3.2億m³の淡水使用が節約されているとされています。

出典:Water Supplies Department
黄色いエリア:海水を利用しているエリア
紫色のエリア:今後導入予定のエリア

ときどき話題になる「異物混入」

ごくまれに、赤錆や微細な沈殿物、配管由来の微粒子が水に混じるケースが報告されることもあります。多くは建物内の古い水槽や配管に起因するもので、水務署の供給段階での水質異常であるケースは稀です。

ちょっと試してみたい豆知識

ここで一つライフハックをご紹介。水道の出が悪い、洗濯やすすぎに時間がかかると感じたときは、いきなり修理を頼む前に、蛇口の先についたフィルター(エアレーター)や、洗濯機の給水ホースの接続部にあるフィルターを確認してみてください。ゴミや異物が溜まっている場合、それを取り除くだけで改善することが少なくありません。

香港の水道は、「三本立ての水源」「淡水と海水の分離利用」「世界水準の浄水管理」という三つの特徴で成り立っています。蛇口を遡った上流には、自然条件、技術、そして都市の巨大な新陳代謝が複雑に絡み合う、水インフラの世界があります。何気なく使っているコップ一杯の水の中に、世界でも類を見ない工夫と努力が詰まっているのです。

香港の水インフラの仕組みが分かりましたね!

まとめ

  • 東江・雨水・淡水化の三本立て水源
  • 東江水が供給の約7〜8割を担う
  • 浄水場で沈殿・ろ過・消毒を実施
  • WHO基準に準拠した厳格な水質管理
  • 世界的に珍しい海水トイレシステム
  • 建物配管老朽化で赤水や異物混入

次回記事は12月17日 公開予定!

これまでの記事はこちらから!

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

香港生活20ウン年。年々クリーンに生まれ変わる香港で、いかがわしさとしたたかさの残り香をひっそりと嗅ぎ漁っています。

目次